研究の結果、食事・栄養素とIBD発症リスクについて以下のことがわかりました。
・潰瘍性大腸炎の場合:
リスクを高める食品:菓子類
リスクを低くする栄養素:ビタミンC
・クローン病の場合:
リスクを高める食品:砂糖及び甘味類、菓子類、油脂類、魚介類
リスクを高める栄養素:総脂質、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、
ビタミンE、n-3脂肪酸、n-6脂肪酸
【論文タイトル】
Sakamoto N, et al. Dietary risk factors for inflammatory bowel disease: A Multicenter Case-Control Study in Japan, Inflamm Bowel Dis. 2005 Feb;11(2):154-63.
■研究概要
・研究方法:多施設ケースコントロール試験
・被験者:診断後3年以内の、UC:118人、CD:128人。年齢:15〜34歳。
・対象群:219人(IBD以外の入院患者)
・調査方法:5年前の食事内容等を97品目からなるアンケート(食物摂取頻度調査票)で調査
・発症リスクの求めかた:
各食品に関して、以下のような手順でリスクを求める。
1.対象群のアンケート結果から、摂取量に関して4つのグループに分ける。すなわち、
下位25%のグループ(摂取量:少ない)、
下位25%〜50%のグループ(摂取量:やや少ない)、
上位25%〜50のグループ(摂取量:やや多い)、
上位25%のグループ(摂取量:多い)、
に分けます。このとき、各グループに当てはまる人数は同じになります。
2.各IBD患者の摂取量が、上のどのグループに当てはまるか調べる。
すると、各グループの人数がわかるので、これらのデータからリスク(オッズ比)を計算する。
(フローラ注: ざっくりいえば、IBD患者の摂取量が一般人より多ければ、その食品はIBD発症のリスクが高く、逆に摂取量の少ないIBD患者が多ければ、その食品を多く食べることによりIBD発症リスクが下がることになります。たとえば、IBD患者の砂糖摂取量を調べたところ、一般の人に較べて砂糖をたくさん摂取する人が多く(上位25%のグループに当てはまる)、逆に砂糖摂取量が少ない患者はあまりいない(下位25%のグループに当てはまる)ことがわかったとします。すると、砂糖を多く摂取することがIBD発症に影響した可能性があると考えることができます。)
■結果
食品・栄養素の摂取量と発症リスクの関係は以下のとおり。
なお、括弧内の倍率は、摂取量の下位25%に対する上位25%の発症リスクの倍率。
・潰瘍性大腸炎の場合:
リスクを高める食品:菓子類(2.86倍)
リスクを低くする食品:野菜やフルーツ(ただし統計的に有意ではない)
リスクを高める栄養素:一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、コレステロール、ビタミンE(ただし摂取量とリスクの関係は明確ではない)
リスクを低くする栄養素:ビタミンC(0.45倍)
・クローン病の場合:
リスクを高める食品:
砂糖及び甘味類(2.12倍)、菓子類(2.83倍)、油脂類(2.64倍)、魚介類(2.41倍)
リスクを高める栄養素:
総脂質(2.86倍)、一価不飽和脂肪酸(2.49倍)、多価不飽和脂肪酸(2.31倍)、
ビタミンE(3.23倍)、n-3脂肪酸(3.24倍)、n-6脂肪酸(2.57倍)
各食品・栄養素の摂取量と発症リスクの関係を示したグラフを下に示す。
・食品と潰瘍性大腸炎発症リスクの関係
・食品とクローン病発症リスクの関係
・栄養素と潰瘍性大腸炎発症リスクの関係
・栄養素とクローン病発症リスクの関係
(フローラ注:論文の表をもとにフローラがグラフにしました。具体的な数値については論文を参照してください)




■考察
本研究の被験者の年齢は15〜34歳なので、これらの結果は比較的若い患者の場合のリスクを反映している。
総脂質、n-3脂肪酸、n-6脂肪酸を多く摂取するとCDリスクが高まることがわかった。血漿中の脂質状態が炎症細胞の活性酸素種生成に影響を与えるかもしれない。活性酸素種は、過酸化脂質などのいろいろな酸化物を生成し病気を悪化させる。
ラットでは、n-3脂肪酸を含む食事が炎症や粘膜の障害を改善することがわかっており、治療薬としても期待されている。
しかし、本研究で特にCDで逆の結果が得られた。脂分の多い魚にn-3脂肪酸が含まれているが、それらの魚に含まれている未知の要素がリスクに影響を与えた可能性がある。
ビタミンCはUCのリスクを下げ、ビタミンEはCDのリスクを高めることがわかった。食事内容の違いのため、このような結果になったかもしれない。すなわち、V.Cは野菜やフルーツに含まれており、V.Eは植物油や脂肪の多い食物に含まれている。
入院中のIBD患者に対してアンケート調査したため、これらは比較的重症の被験者の結果である。軽症のIBD患者では結果が異なるかもしれない。
5年前の食事について聞いているため、思い出しバイアスの影響を受けている可能性がある。
(フローラ注:思い出しバイアス(偏り)とは、過去の事柄を思い出す場合に生じるバイアス。)

